2006.05.01 Mon
狐笛のかなた:本
最初、本を手にしてペラペラッとめくった時の印象は、呪いとか使い魔とか、何だか怪しくて小難しそうだなぁ…と感じました。でも、本全体から発している霊気のようなものにひかれて、とりあえず読み始めてみたんです。
![]() | 狐笛のかなた 上橋 菜穂子 (2003/11) 理論社 この商品の詳細を見る |
そしたら予想外に面白くて…あっという間に物語の世界に引き込まれてしまいました。一気に読み切ってしまいたい衝動を抑えながら、日に2〜3章だけ、20日間かけて毎日少しづつゆっくりと読みました。そうする事で、物語の世界と自分の日常を何度も行ったり来たりしつつ、その特殊な空間に身体をなじませたかったんですね。
この物語の舞台は、いつどこの場所なのか具体的に設定されていないんですが、風景が古き良き日本のようで懐かしいし、何となく実在感が強いんですね。それで、この世とあの世を結ぶ「あわい」という霊的空間も妙にごく当たり前に存在している感じがするんですね、読んでいると。
こういった霊的感覚は、遠い昔はごく普通にあったんだけど、現在の常識や価値観で生きる僕達が忘れてしまっている感覚のような気がします。いつの間にか失ってしまった精神性・霊性の代わりに、僕達が得たものはグローバル資本主義や個人主義、物質主義といった価値観なんだと思うけど、果たしてそれが正しかったのだろうか?…なんていう内省的なテーマも、この物語にはあると思います。
舞台装置はさておき、物語の中心にあるものは、ラブストーリーです。ここに描かれている小夜の「初恋の感覚」、野火の「命がけの献身的な愛」、純粋に愛する事の美しさや厳しさも、今の僕達が失っている大切な事なのかもしれません。
この小説が描くこの世の日常的な風景や「あわい」の異空間からは、匂いや手触り、光の具合や色、形や音などが非常に感覚的に伝わってきます。言葉を通して、実際にその香りを嗅いでいるような錯覚を覚える、非常に不思議な文章です。使われている言葉はとても平易で、難しい漢字にはふりがながふられているので、一体どこにそんな言葉の魔法が隠されているのか、考えるほどに分からなくなります。言葉の錬金術のようです。
読み始めるとすぐに海の底に潜ったような“ブーン”という音がして、「あわい」にすっぽりと包まれているような錯覚を覚えます。確かに存在する、ここではないどこかに没入するようなこの感覚によって、僕はウィリアム・ギブソンの「ニューロマンサー」を連想しました。今から20年近く前、インターネットのなかった時代に、電脳空間(マトリクス)を幻視させてくれたSF小説です。
また、薬草をお茶にしたりして、山での暮らしを共にする小夜とお婆ちゃんには、吉本ばななの「王国?その1 アンドロメダ・ハイツ?」を連想しました。設定が似ているというだけでなく、日常の何気ない空気感から霊的な世界を感じさせる、生命の歓びや不思議さ、尊さを思い出させてくれる、その錬金術的な能力に共通点を感じるのだと思います。
要所に配置されている白井弓子さんの挿絵も非常にいい感じです。ふわふわとした空気感、切れそうなほどシャープなエッジ。モノクロームなのに、質感が非常に豊かです。霊界を描くにふさわしい力量のある方だと思います。
ストーリー全体の印象は、自然、宇宙の掟に従って起こるべくして起こった展開のようで、素直に共感し、納得できます。すとっ…と収まるところに全てが収まったような居心地の良さを感じました。そういった意味で、作者のシナリオにエゴは感じられず、ハリウッド映画のようなご都合主義はみじんもなく、きっぱりと清く必然性の世界に心を明け渡しています。だけどそれが魅力、それだからこそ面白いのだと思います。
また、読みながら、ふと「これが宮崎アニメになったら、面白いかも…」と思ったのは、僕だけではないはずです。海外の原作じゃなくてさ、日本から宇宙に突き抜けるような作品を描いて欲しいなぁ。
作者の上橋菜穂子さんの、守り人シリーズなど他の作品はどうなんでしょうか。同じように面白いのかな?すごく気になっています。
理論社「狐笛のかなた」オフィシャルサイト
Amazon.co.jp 狐笛のかなた / 上橋 菜穂子
この物語の舞台は、いつどこの場所なのか具体的に設定されていないんですが、風景が古き良き日本のようで懐かしいし、何となく実在感が強いんですね。それで、この世とあの世を結ぶ「あわい」という霊的空間も妙にごく当たり前に存在している感じがするんですね、読んでいると。
こういった霊的感覚は、遠い昔はごく普通にあったんだけど、現在の常識や価値観で生きる僕達が忘れてしまっている感覚のような気がします。いつの間にか失ってしまった精神性・霊性の代わりに、僕達が得たものはグローバル資本主義や個人主義、物質主義といった価値観なんだと思うけど、果たしてそれが正しかったのだろうか?…なんていう内省的なテーマも、この物語にはあると思います。
舞台装置はさておき、物語の中心にあるものは、ラブストーリーです。ここに描かれている小夜の「初恋の感覚」、野火の「命がけの献身的な愛」、純粋に愛する事の美しさや厳しさも、今の僕達が失っている大切な事なのかもしれません。
この小説が描くこの世の日常的な風景や「あわい」の異空間からは、匂いや手触り、光の具合や色、形や音などが非常に感覚的に伝わってきます。言葉を通して、実際にその香りを嗅いでいるような錯覚を覚える、非常に不思議な文章です。使われている言葉はとても平易で、難しい漢字にはふりがながふられているので、一体どこにそんな言葉の魔法が隠されているのか、考えるほどに分からなくなります。言葉の錬金術のようです。
読み始めるとすぐに海の底に潜ったような“ブーン”という音がして、「あわい」にすっぽりと包まれているような錯覚を覚えます。確かに存在する、ここではないどこかに没入するようなこの感覚によって、僕はウィリアム・ギブソンの「ニューロマンサー」を連想しました。今から20年近く前、インターネットのなかった時代に、電脳空間(マトリクス)を幻視させてくれたSF小説です。
また、薬草をお茶にしたりして、山での暮らしを共にする小夜とお婆ちゃんには、吉本ばななの「王国?その1 アンドロメダ・ハイツ?」を連想しました。設定が似ているというだけでなく、日常の何気ない空気感から霊的な世界を感じさせる、生命の歓びや不思議さ、尊さを思い出させてくれる、その錬金術的な能力に共通点を感じるのだと思います。
要所に配置されている白井弓子さんの挿絵も非常にいい感じです。ふわふわとした空気感、切れそうなほどシャープなエッジ。モノクロームなのに、質感が非常に豊かです。霊界を描くにふさわしい力量のある方だと思います。
ストーリー全体の印象は、自然、宇宙の掟に従って起こるべくして起こった展開のようで、素直に共感し、納得できます。すとっ…と収まるところに全てが収まったような居心地の良さを感じました。そういった意味で、作者のシナリオにエゴは感じられず、ハリウッド映画のようなご都合主義はみじんもなく、きっぱりと清く必然性の世界に心を明け渡しています。だけどそれが魅力、それだからこそ面白いのだと思います。
また、読みながら、ふと「これが宮崎アニメになったら、面白いかも…」と思ったのは、僕だけではないはずです。海外の原作じゃなくてさ、日本から宇宙に突き抜けるような作品を描いて欲しいなぁ。
作者の上橋菜穂子さんの、守り人シリーズなど他の作品はどうなんでしょうか。同じように面白いのかな?すごく気になっています。
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